8月20日から全国で公開されている長編アニメ映画「ソング・オブ・シー 海のうた」を、恵比寿ガーデンシネマで見てきました。大人が惹きつけられる、美しくて穏やかな素敵な作品でした。
アイルランドの冒険物語が、なぜか懐かしく引きこまれる
少年ベンと、不思議な力を持つ妹のシアーシャの冒険物語。魔女や妖精、巨人など、アイルランドの伝承や神話の住人が多々登場します。
アイルランド・ルクセヌルク・ベルギー・フランス・デンマーク合作の作品で、トム・ムーア監督は北アイルランド出身。
一度聞いたら忘れられないメインテーマは、リサ・ハニガンというアイルランドのシンガーソングライターの手によるものです。いわゆる「ケルト音楽」らしさを持った癒しの歌で、劇中で母親が子どもたちに歌う不思議な力を持つ歌、タイトルにある「海のうた」です。
この作品、アイルランドの話なのに、どこか懐かしいにおいがします。特に日本では、広く受け入れられるのではないかと感じました。実際、上映が終わってから非常に多くの大人が、展示されていた新聞・雑誌での紹介記事をとても熱心に読んでいました(上写真の右の展示)。
とても穏やかで美しいのに、切なくぐっときて、惹きつけられる。その魅力の秘密を、私なりに考えてみました。
理由1) 異類婚姻譚は、日本でもなじみのある説話
元になっているアイルランドの説話が、「人魚と結婚した話」です。
人間の男が、海辺で海から上がった人魚を見つける。男が彼女の上着を隠してしまったので、女は海に戻れず、男の妻となる。だが子どもも生まれたある日、女は上着を取り戻して、海に帰っていく……というのです。
これは日本でもおなじみの「天の羽衣」とそっくりですね。
子までなした妻が、実は狐の化けた姿だったという「狐女房」とも同じパターンです。
遠野物語にも、馬と娘が結婚する「オシラサマ」にまつわる話がありますね。
話の根底にあるのは、自然とともに生き、人間と自然や動物の間に線を引かず、人間は不思議な世界と隣り合わって生きているという考え方です。異国の説話ですが、日本の人にもなじみやすい、普遍的な物語だと感じます。
理由2) 海に囲まれた風景に郷愁を感じる
日本もアイルランドも、海に囲まれた島国です。
特に私が海遊びになじんでいるせいかもしれませんが、海が登場し、海とかかわる物語には強く惹かれます。
少年ベンが家族と暮らす海辺の家は、メインの交通が船のみの、灯台が象徴的な建物です。はっきりと描かれてはいませんが、離島感が強く出ています。そうでなければ、孤立した陸の孤島でしょう。
シアーシャがアザラシたちと深く青い海を自在に泳ぎ回るシーンは、水の世界特有の静けさ、穏やかさに満ちています。観る人の気持ちも、一緒に空を飛ぶように泳ぎ回ることができるでしょう。この心地よさもどこか懐かしく感じます。
理由3) 小津安二郎監督作品の影響を受けている
パンフレットのインタビューによると、トム・ムーア監督はジブリを始めとした日本のアニメ作品に大きく影響を受けているそうですが、そのほかにも、黒澤明監督の作品からも多くを学んだそうです。
そして今回の作品では、小津安二郎監督の手法、そして穏やかさ、静謐さを取り入れようとしたとあります。
子供の冒険ものとしては、不思議な空気感を感じました。活力や怒りよりも、哀しみと情愛を感じる、しんとした、それでいてぬくもりのある雰囲気。
なににたとえていいかよくわからなかったのですが、小津安二郎監督作品の影響を受けているといわれると、なんだか納得するムードがあります。
絵本のような美しさとあたたかみに満ちた長編アニメ映画
すぐれた作品がたいていそうであるように、とてもユニークで、普遍的で、美しい作品です。
子どもたちに犬、大人やアザラシ、妖精たちまで、すべてが丸っこく愛らしく、スッキリとシンプルにデザインされたキャラクターは、やさしくあたたかく観る人を惹きつけます。
そして美しい美術背景は、細部が驚くほど細かく描き込まれています。この密度は、スクリーンでみないともったいないほどです! 1カット1カットが動くアートのよう。絵本が好きな大人にはたまらないでしょう。
トム・ムーア監督は、長編としては今作が第2作、日本公開は初めてとのことですが、今後がとても楽しみです。
子どもから大人まで、多くの人に見て、楽しんでほしいと思います。
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・25年前の小説『ジュラシック・パーク』は、いま読んでもとてもおもしろい。
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